雄大なアルプスの麓に位置する美しいアヌシー湖畔(フランス東部)が舞台になっています。 深呼吸したくなるような圧倒的に美しい景色と小鳥のさえずり・・ そして湖面の水がチャプチャプ跳ねる耳にこそばゆい音など、俗世間から逸脱した場所に別荘を持っている 中年の男とそこで出会う若い二人の娘(ローラとクレール)を中心に物語は展開します。
山と湖の調和した景色が精神の解放を促してくれそうな心地よい別荘の部屋を借りて執筆活動をしていたのがオーロラという女性で、彼女の古い男友達が主人公ジェローム。 彼は一緒にいても疲れない女性との結婚を控えたマリッジ・ブルーな気分を漂わすプレイボーイ。 オーロラは若い頃からジェロームに惹かれていたようで、互いに仲がいいけれど結婚には至らなかったという友情関係が成立している男と女。
個人的感覚でヒトコト言わせてもらうと、夏のバカンスや雄大な景色と全く波長が合わないジェロームの髭・・ 髪の毛と口髭と顎鬚がすべてつながっていて彼の顔もハッキリしないし、とにかく暑苦しいイメージが感じられました。 顔立ちは良さそうなジェロームに言いたいことは、 「鬚を剃って!」 この主人公の風貌にロメール監督の意図は当然加わっていると思います。
オーロラが書く小説のモルモットになって、ジェロームはローラという少女を相手にデートを仕掛けます。 彼はローラの反応を見てオーロラに報告するという いわゆるネタ探しのようなことをしていました。 ジェローム同様 モルモットにされたローラは、同年代の男の子より年上がいいと言ってそれなりにジェロームを喜ばせ自分も楽しんでいる様子。
しかし熱い恋の予感はまるでなく、互いに互いの反応を窺っている様子が感じられます。 そんなローラには父違いの姉クレールがいて、姉妹とはいうものの二人は全く似ていません。 クレールには同世代の恋人ジルがいました。 妹のローラは年上のジェロームを相手にするけれど、姉のクレールにとってヒゲオヤジの存在は眼中にないという状況。
まるで相手にされていなかったジェロームに突如 芽生えたクレールへの熱い想い。 自分が知っている自分の意識に反して、クレールの膝を触りたい!という欲求にかられる自分に驚いているジェローム。 理性に変わって活発化し始めた本能的感情が恋の始まりだと思うので、ジェロームはクレールに出会って初めて 燃えるような恋の高ぶりを感じたってことなのか・・
クレールを前にするとあがってしまう自分を分析してジェロームは、何でも話せるオーロラにこんなことを言っていました。 「目標の見えない欲望だからよけいに強い。 何も求めぬ純粋な欲望・・ その欲望を感じる自分に当惑する。 そんな女がいたとは・・」 ということで、ジェロームはクレールの膝に触れたい欲望を募らせていきます。 胸ではなく膝ねえ・・ 男の複雑な気持ちがワカラナイ!
そしてジェロームの何も求めない純粋な欲望は、嵐の日に達成されます。 「男の言いなりになっている」 とクレールに批判めいたことを言って、さらに彼女が好きなジルが別の女の子といるところを目撃したジェロームは、君のためだとか何とかこねまわしながらその事実を彼女に言って傷つくクレールをクールに眺めています。
しばらくは耐えていたクレールだったけれど、 「もう喋らないで!」 と言って泣き出す始末。 そんなクレールのそばでドサクサに紛れて彼女の膝の上を撫で回しているジェロームの手のひら。 彼女も心的ショックのせいもあり、彼の手を払いのけるようなことはしなかったけれど クレールの目線が複雑で独特の怪しい雰囲気が漂っていました。
その結果報告をオーロラにしているジェローム。 彼にとってクレールの膝を撫でるというのは、絶壁から飛び降りるようなことだったと言っています。 大変な勇気が必要だったとも・・ 「自分の意志で初めて勇敢なことをした・・ 純粋な意志で一つのことを成し遂げた。 やらねばとこれほど思ったこともない。」 とかなんとか・・・ ジェロームにとって余程 クレールの膝に触れることは純粋な欲望だったのでしょう。 結婚前に大事なことが達成されてよかったと思います。
一方のクレールは、ジルの事実を知るために彼を問い詰めている様子。 そんな若い二人の会話を聞いていたのがオーロラ。 彼女はこの事実を知って小説の題材に取り入れ、その後のジェロームとクレールを主人公にした話を書こうという気持ちになったのかどうか・・
どう考えてもクレールはヒゲオヤジより若いジルのほうが好きみたい。 ジェロームの言葉を借りて表現すると、純粋に同年代のジルにやきもちを焼いていたのはクレールでした。 純粋さの真実を解明するための手っ取り早い手段は、意味もなくどこかから突き上げてくるような恋?
* 監督 エリック・ロメール * 1970年 作品
* 出演 ジャン=クロード・ブリアリ オーロラ・コルシュ ベアトリス・ロマン
ところで絶壁から飛び降りるほどの勇気が求められる純粋な欲望を感じることができる女(男?)に出会ったことあるぅ?