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アパートの鍵貸します

       

自分が住んでいた賃貸アパートの部屋を上司の浮気部屋として提供していたのが主人公
C.C.バクスター。
ジャック・レモンが扮したバクスターは巨大組織で構成された保険会社に勤める大部屋のイチ平社員。自分の部屋を浮気部屋に無料開放するその意図は上司の計らいによる出世期待で、会社での実質的な仕事は自分のアパートの鍵を封筒に入れ上司の手元に届けることでした。浮気相手の都合もあり部屋を使う上司の変更に応じて曜日を設定するのがバクスターの主な仕事。彼のデスクやその上に置かれた電話は結局のところ上司の浮気のために使われているのが現状で、会社組織の一端を垣間見る映画でもあります。

彼は今で言うところのパワハラっぽい上司の態度を利用して出世しようとする目論みで、どっちもどっちのギブ&テイクで成立していたのが家族持ちの上司と独身バクスター。妻の目を盗んで別の女と浮気することも上司の仕事だったようで、彼らを後押しする形で自分の出世実現に驀進していくバクスターはバックが嫌い? そんな彼の前向き姿勢が認められ大部屋から何とか飛び出すことができたのですが、それと同時に彼が密かに想いを寄せていた女性の不倫を知ることになります。その女性が若き日のシャーリー・マクレーンが扮した可愛いフラン。身持ちがいいことで定評があった彼女は会社内の人気者。
                

そんな彼女を翻弄していたのが部長という肩書きを持つシェルドレイクで、会社の中では一応エライ人。
色を好む傾向のエライ人だった部長はフランとの不倫前にも次から次に会社の女に手を付けていました。その事実を知った彼女はショックを受け、こともあろうにバクスターの部屋で自殺未遂。彼女が命を落とさずに済んだのはバクスターの対処がヨカッタからで、応急処置に対応してくれたのが隣りの部屋に住んでいたおせっかいなドクター・ドレイファス。毎晩隣りの部屋から聞こえてくる女の声に反応し、バクスターの現状に何度も警告を発してくれていました。特に耳に残ったのが“Be a mensch!”メンチュと発音されていたmenschとはhuman beingのこと。

英語っぽくないmenschは東欧系ユダヤ人が用いていた言語(イディッシュ語)で、ユダヤ人の血を受け継いでいたワイルダー監督はこの映画で何度かメンチュという言葉をドクターに喋らせています。耳慣れない奇妙な発音なので浮いたように耳に残っていたのがメンチュになれ!すなわち真の人間になれ? バクスターの日常を勘違いしていたドクターの手痛い介護により眠りから覚めたフラン。眠ろうとする彼女の目覚めを終始見守り続けていたバクスターこそメンチュだったと思う。心配してこの部屋にやって来たフランの義兄に殴られても平気だったバクスターは、フランを救うことに必死でした。そんな彼を理解できず相変わらずエライヒトが言う甘い言葉に騙されてしまうフラン。甘い言葉で女の気を引くような男は家庭でもテキトーな言葉で家族を騙していると考えた方がいいかも。

       

バクスターが住んでいたアパートメント(原題
The Apartment)は寝室・居間・キッチンと独立した部屋の間取りで結構広い。シーズンに合わせてクリスマス・ツリーが居間にあったり、スパゲティ調理のためにテニス用ラケットがキッチンにあったりします。外食もしないで冷凍食品をチンする侘しい夕食風景ですが、ワイルダー監督が描くとほのぼの感が漂う夕食になるのが何とも不思議。後半で好きなフランと一緒に食事する際のスパゲティ料理に使われていたのがラケットで、邪魔になりそうな長いラケットを狭いキッチンで手際よく使えたバクスターは麺を皿にひっくり返すのが上手い。最近はこういう男性がモテ系のよう。今から50年も前に描かれたバクスター・タイプの男性が21世紀を背負うのかも。

何とか回復できたフランを待っていたのが家から追い出されたシェルドレイク部長。
自分から家を出たのではなく以前の愛人だった秘書が彼の妻に密告したことが原因のようで、ますますメンチュから離れた人生を目指している部長。一度死にかけたフランは部長の嘘を見抜く新たな目を持つ女性に変身。エレベーターガールが象徴するように上がったり下がったりする生活は卒業した様子で、最後に彼女が選択したのは甘い言葉で人を惑わすようなことをしない料理上手なバクスター。

地位も部屋も手放し、再出発しようしていた彼が最後にこんな言葉をフランに言います。
「愛してるよ」とか「君に夢中だよ」とか。でも成長したフランが返した言葉は「黙ってカードを配って!」。「物事はすべて成り行きだわ」と言っていたフランの言葉通り、成り行きでソファに隣り合った二人。メンチュな二人の成り行きを演出したのが緻密な脳を持つワイルダー監督で、その緻密な脳構造をさらけ出さない賢さがまた賢い。やはり名を残せる監督はスゴイ!

* 監督 ビリー・ワイルダー    * 
1960年(米)作品
* 出演 ジャック・レモン   シャーリー・マクレーン

★ 家族持ちで女に甘い言葉を平気で言う男は信じない方がいいと思う。
    


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  • 2017.10.26 Thursday
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