「貴様らメス豚がおれの訓練に生き残れたら各人が兵器となる。
その日まではウジムシだ。地球で最下等の生命体だ。」
坊主頭の海兵隊員を使える兵士にしようとするハートマン軍曹が、生徒に浴びせ続けた訓練時のほんの一部の罵倒です。 ベトナム戦争を題材にしている戦争映画のように考えている人がいるかもしれませんが、全く違います。(と思います)
ハートマンが発する罵倒はもしかして 凡人には理解しがたい頭脳構造を有するキューブリック監督が、人間全般に向けて言いたい言葉ではないかと感じたりもしました。
「貴様らは人間ではない。両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない。」
映画のなかでクソ(shit)という単語が何度も繰り返されます。
スラングというスラングは、この映画にすべてまとめて吐き出されたと言えるぐらいの滅茶苦茶に汚い言葉が続きます。 言うほうも疲れると思うけれど、聞いているほうも体力がないと映画を観続けることはできなくなってしまいそう・・ とにかく日常で聞いたことがないぐらいに汚い発言! でも慣れてくると結構面白いヨ。
字幕作成の際、キューブリック監督は翻訳された日本語を再英訳させてチェックし、それを何度かくり返して字幕を完成させたという風に言われています。 いかにこのスラングにエネルギーを注いでいたかが分かる話。 余程 何かを伝えたくて極端な連続罵倒をしているという理解をしましたが・・
物語は前半の訓練部分と後半の実践部分で構成されていて、
インパクト度は断然 前半のブッチギリの罵倒映像。
訓練生のなかに何をやってもウマクこなせない
デブクンが一人いて(彼なりに頑張っているのです)、
その子を鍛えるために
ますますハートマンは過激になるという構図。
二人のかみ合わない想いが限界に近付き、
ギリギリ状態が明らかにされてきます。
デブクンは人間であることに疲れて壊れてしまいました。
そのことに周りの訓練生は誰一人気付かず、事態は表面化! 現実社会も同じこと。
フルメタル・ジャケットを身にまとっていれば、撃たれても倒れなくてすむので、厳しい世の中を生きるためには、このジャケットを手に入れる必要がありそうです。
お風呂に入る時もこのジャケットは手放せない!
後半は前半に比べると余り面白くなく、戦争映画とは程遠いツクリモノのような映像でした。 このツクリモノという感覚が、監督の意図ではないかと思います。
戦争のリアル感なんていうものは必要なく、むしろ前半の非常事態が発生するまで誰も気付かないことに 力点が置かれているように感じました。
ツクリモノの後半は、たった一人の女兵士と闘っていた 鍛え抜かれたはずの海兵隊卒業生たち。 彼女に振り回されていた兵士(と呼べるかどうか)のことを考えると、これは戦争映画ではないはず。 海兵隊の卒業生は翻弄されていた女を撃った後、ミッキーマウス・クラブの歌を合唱しながら行進していました。
殺すことに感情を交えず撃つことができるようになった彼らは、フルメタル・ジャケットを手に入れました。
海兵隊の若者を愛するハートマンが、容赦なく浴びせ続けたクソの中から最後にもう一言・・
「俺は人種差別を許さん! すべて平等に価値がない!」
* 監督 スタンリー・キューブリック * 1987年 作品
* 出演 マシュー・モディン ヴィンセント・ドノフリオ R・リー・アーメイ
ハートマンとデブクンは、いつの世もどんな国でも起こりうる現実。