“28日後 . . .” というタイトルで思いつくのは月の一周期が約28日間ということ。 無の状態の新月が満ちて満月になりそして欠けて再び無に戻るのに約28日間を要します。
これらのことと何か関連があるのかどうかは分かりませんが、地球上で生活する人間にとって大切なリズムの一つであることには間違いありません。 人間の凶暴性を題材にした血の伝染がテーマになっています。 現代社会も少なからず、これと似たような血の民族的対立あるいは宗教的争いは跡を絶ちません。
オープニング・シーンはイギリスの首都ロンドンから北に位置するケンブリッジ霊長類研究センターのある一室。 両手両足を鎖につながれ身動きができない状態で隔離されたチンパンジーの周りに多くのテレビが配置されていて、そのテレビに映し出される映像はすべて暴力的で戦闘的なものばかり。 チンパンジーの頭には脳波検査をするための器具が取り付けられていました。 他にも多くの猿が檻に入れられた状態で、周囲はこのような映像が常に映し出されているようです。
そんな危険な一室に侵入し猿を檻から出して自由にしてあげようと思っていたグループ全員が、凶暴ウィルスに感染していた猿に噛み殺されてしまいます。
その凶暴性を英語 (原語)では 『rage』 と表現されていて、 “激怒” という意味以外に “熱狂” や “どんちゃん騒ぎ” などという意味も含む言葉です。 一瞬にして血の海と化した実験室での騒動があった28日後、場面は変わって病院のある一室。
ハロー(hello)を繰り返す一人の青年・・ 病院には誰もいなくて電話の受話器はすべて垂れ下がったままの状態。 外に出てロンドンの街でハローを繰り返しますが、答えてくれる人は誰もいません。 ゴミだらけの死んだような街で英国民が集団脱出したことを知り得た彼の名はジム。 一人きりで汚い街に残されたジムは教会にたどり着き、その内部で見たものは人間の死体の山。 神父までが血を吐きながら自分に襲いかかる状況で、国全体が何か異常なことに巻き込まれた様子が伺えます。
しだいに状況を把握し自分が置かれている立場に気付き始めたジムは、凶暴性の感染を免れたマークとセリーナに出会い互いに協力して生き残りの道を求めていこうとしますが、途中でマークはウィルスに感染・・ そしてセリーナがマークを殺すことで血の感染を防ぐことができました。 映像の途中で何度も襲いかかる吐くような不快音が耳ざわりだけれど、多分 監督の狙いはそのイヤな気分だろうと思います。 その後 別の場所で生き残った父と娘が加わり、4人のウィルス感染から逃れる旅は続きます。
安全を保障してくれるという軍部を信じてその場所に向かう4人。 悲惨な状況を克服して安全な土地を目指そうとするときの映像で、バックで流れていたアヴェ・マリアの音楽が一瞬の慰めを与えてくれますが、やはり一瞬にすぎません。 この世には安心して過ごせる場所はない!ということでしょうか。 それでも安心して過ごせる場所を求めようとするのが人間の素直な気持ちだと思います。
安全を保障してくれるという軍事基地で彼らが見たものは、凶暴ウィルス以上に荒々しい軍人たちの統制と暴力。 しかしココまで来た限り、自分たちが信じる生き方で突き進んでいくしかありません。 他人を頼っても助けてくれることはなく、生きることは孤独な旅であることを強く感じます。
ハローという言葉で始まった物語は、大地に敷かれたツギハギだらけの布ギレの“HELLO” という文字で終わります。 天が見てくれるように敷かれた大きなハローという言葉を受け止めてくれるのは、地上を見下ろしている天の住人ということ? 28日後に再生する月のように、何度も再生を繰り返してたどり着ける場所が安全な場所なのかもしれません。
* 監督 ダニー・ボイル * 2002年 作品
* 出演 キリアン・マーフィ ナオミ・ハリス クリストファー・エクルストン
凶暴性の対比として示されていた 『聖』 や 『静』 を求めている映画という風にも感じました。