舞台の緞帳が上がるシーンから始まります。
多くの椅子や机が乱雑に置かれている舞台で、
苦悶の表情を浮かべた二人の女が前と後ろに分かれて
その苦しさから逃れるように動き出します。
そのとき近くで椅子や机にぶつからないように
そのモノをドケテいる男。
二人の女は似たような動きをして、
共に壁にぶつかって倒れます。
オペラ風の音楽がより悲しく切なく、二人の女の苦しみやモガキを観ている側に伝えてくれます。 その哀しい二人の女を泣きながら観ていたのが、この映画の主人公マルコとその隣に座っていたのが 後に深い親友になるベニグノでした。
初めは見ず知らずの他人同士だった二人が出会ったのが、病院という特殊な場所。
ベニグノが過去にしてきたことは、長年にわたって実践してきた母親の介護だけ・・そしてこの数年間は愛するアリシアというバレリーナの介護をしていました。 一方 マルコは女闘牛士のリディアを愛し始めていました。
しかし二人の男が愛した女性たちは、二人とも事故で病院のベッドで 眠れる森の美女のようにただ眠り続けているだけでした。 眠り続けたまま何も反応がないアリシアに、ベニグノは語り続けていました。 このシーンがタイトルに一番近い。
女性の脳は神秘的なので、眠っているように見えても内面では自分が語りかける声を理解しているはずだと言うベニグノ。 でもマルコは、牛の角に突かれた瀕死の状態のリディアに触れることができずにいました。
この映画のなかで、ベニグノが無声映画を観に行きます。
タイトルは 『縮みゆく恋人』・・
眠ったままのアリシアが、
元気な時に好きだと言っていた無声映画。
この無声映画がスゴイ!
トーキー(talkie)ではないのに、
映像だけで見事に伝わってくる強烈なものがあります。
内容は、彼女が開発した薬を飲んで縮んだ恋人が 一寸法師のようになって動く映像が見どころです。 彼女が眠りに就く際、その縮んだ恋人は彼女のオッパイの上によじ登って下り 次に目指したのは彼女の秘密の花園! 卑猥さのない映像が表現しているのは何なのでしょう・・ 命の神秘のような不思議な感覚が伝わりました。
ホモ扱いされていたベニグノは最後に自殺を選びます。 ワケあって刑務所に入っていたベニグノを支えたのがマルコ。 アリシアとの一体化を求めていたペニグノは、アリシアの妊娠を機に刑務所へ・・ 現実的な話ではなく、無意識状態のアリシアが妊娠したことはベニグノが望んでいた一体化が成就したという風に考えることもできます。
女の介護ばかりしてきたペニグノを特殊なホモとは見ずに、一途にアリシアを愛するただの男であることを理解したのはマルコで、彼もベニグノ以上に切ない女のダンスを観て涙する男でした。
* 監督 ペドロ・アルモドバル * 2002年 作品
* 出演 ダリオ・ダランディネッティ ハヴィエル・カマラ レオノール・ワトリング
“ククルクク・パロマ” の誰しもが魅了されてしまう歌と演奏を聴かせてくれたのは、監督もファンだというカエターノ・ヴェローゾというブラジルのおじさん。