JR奈良駅から南に向いて走る桜井線の終着駅は桜井で、その手前に三輪駅そしてもう一つ手前が 今回のテーマとなる “巻向(まきむく)” 駅に代表される地域です。 その巻向駅の東部に “穴師(あなし)” という変な地名があります。 どう考えても違和感のある名前で、以前からずっと心に引っ掛っていました。 万葉集にも穴師川として詠まれているのでかなり古い歴史があるのだろうと思います。
この辺り(桜井市)を流れているのが巻向川で、巻向山の北麓に源を発して西方向に流れています。 この巻向川の古称が穴師川で別に痛足(あなし)川とも表記されていました。 これらのことから考えると 『巻向』 と 『穴師』 それに 『痛足』 は深い関係がありそうです。 地理的には三輪山・巻向山と連なる峰を挟んで 北は穴師川 南は初瀬川がともに同じ西方向に流れ二つの川は合体して北に川筋を変え、最終的に大和川に注ぎ込みます。
その巻向川が流れている北側に鎮座しているのが “穴師坐兵主(あなせにますひょうず)神社”。 祭神は三神で中央に兵主神 右に若御魂 左に大兵主神が祀られています。
神社名から感じるところ 穴と兵だけが印象深く残り実体をつかむことができません。
穴と兵 アナとヘイ あなとへい 穴は隠れる? 兵は戦う? 正体が見えない風になれば姿や形が人の目に触れることなく暴れることができそう・・ もしかしてこの神社の祭神は風の神? また “巻向” という漢字はグルグル巻くイメージの風に近いように思います。
奈良県の北 福井県小浜市に同じ読み方の “阿奈志神社” があり祭神は大己貴神。
大己貴神は後に大国主神となって出雲国を治めていたところ、高天原に一方的な国譲りを迫られ追い詰められてもいました。 大己貴神の別名に兵とかかわる “八千矛神” という異名から推察すると、出雲国を追われた八千矛神が 見えない風(穴師)になって暴れているということも考えられます。
痛足川(あなしかわ) 川波立ちぬ 巻向の 弓月ヶ岳に 雲居立てるらし 柿本人磨呂
この歌に詠まれた痛足川というのが巻向川と想定し、弓月ヶ岳はその川の源である巻向山と単純に考えてみました。 巻向川が痛足川なら、痛足川を産み出す巻向山の別名は多分 “痛足山”。 弓月という細い三日月型の尖った山がアナシ山の可能性が高く、もしこの山に登ろうとすればきっと足が痛くなってしまいそう。 アナシの言葉の響きから “吾(あ)なし” を導き出して考えると、吾(我)がない山。 すなわち実体がつかめないということに・・
ぬばたまの 夜さり来れば 巻向の 川音高しも あらしかも疾(と)き 詠み人知らず
漆黒の闇に包まれる頃 巻向川が風で波立っている様子が表現されています。 古代 北西から吹きつける強風を “アナシの風” と言いました。 巻向川を波立たせている原因はアナシの風?
アナシ川もアナシ山もアナシの風もアナシグループはすべて実体に欠けています。 実体がないアナシを想像すると、足が痛いので歩いたり走ったりすることは避けてユーレイのように暗い穴をさ迷い続け 誰かが支えてくれるのを待ち続けている困った人たちなのでは・・